インタビュー
コロナ禍で何を”得た”のかvol.04/緊急事態宣言下で見えた街の一員としてのあり方
apartment inc.
石山慎介さん、正田征稔さん
株式会社頃末商店
石原義之さん
2020年2月より徐々に世間へ影響を及ぼしてきた新型コロナウイルス。
安心・安全に街へ美味しいを届けたいと、早くから様々な取り組みを行っていたのが、まだオープンしたばかりの焼き鳥店「hibi(ヒビ)」でした。テイクアウト/デリバリー商品の展開などへいち早く取り組めた背景、株式会社頃末商店とのコラボレーション、そしてwithコロナへと向かう中への取り組み、hibiに加えてfar.pitte(ファルピッテ)、legno(レグノ)を展開するapartment inc.の石山さん、正田さん、そしてコラボレーションパートナーの株式会社頃末商店の石原さんへお話をうかがいました。
さっそくですが、まずは新型コロナウィルスが
世間を騒がせた時期から、hibiでのコラボレーション展開までのお話を教えていただけますか?
石山:実際に売上への影響を感じたのは2月下旬から。正直12月にOPENしたhibiを3月ぐらいには軌道にのせるつもりで、様々な計画をしていたのでこれはまずいなと・・・
正田:ぼんやりとその時からお店に来れない方に何か届けられないか?という構想をはじめました。そのときすでに、自分たちだけではこの危機は乗り越えられないし、仕事でお付き合いのある方々や、周りの飲食店も、お客さまも含めて“街全体”で一緒に乗り切れる方法を探そうと決意していたんです。
そんな時、頃末商店の石原さんのことがスッと頭に浮かんで(笑) 実は頃末さんに自宅までよくお酒を届けていただいているんです。この仕組みを活かせないかなと思って。当時はまだ酒販免許に関する緩和の発表が出ていなかったので、頃末商店も巻き込んでhibiの料理とワインのセット売りができないか相談しました。
石原:実は正田さんは超お得意様なんです(笑) ちょうど飲食店の方々への卸が中心の酒屋としても、何かをしなくてはならないと考えていました。話を頂いたときに面白いなって感じましたし、もちろん飲食店の皆さんの頑張りは私たちも積極的に応援したかったので、すぐにOKをしました。
石山:正直、私たちも通常の営業ではあまり想定していなかったことなので、打ち合わせが新鮮でとても楽しかったですね。例えば、もともと福島県の伊達鶏というブランドの丸鶏を仕入れて、焼き鳥として提案していました。自分たちのスタイルとしては食材もワインも生産者を大切にしたいということがあり、仕入れを止めたくないという思いが強くあったんです。
正田:本当は2月中旬に福島県まで生産者さんを表敬訪問できないかなんて話をしていたんです。先方へ打診したら「ほんとうに来れますか?」って心配されて、関東ではすでに新型コロナウィルスの影響が拡大していて、温度感の差に驚いたこともありました。
石山:メニューを企画する上では、仕入れた食材をロスにしたくなかったので、お客さまのご来店が減ってきても色々な部位を総合的に使える鶏鍋をはじめに企画しました。試作品を石原さんに食べていただいて、この出汁にはこのワインでしょ?って持ってきてくれたワインがまた絶妙で(笑)
石原:日頃、私たちやhibiさんが力を入れているナチュールワインだったのですが、あのペアリングは我ながら本当に絶妙だったと思いますよ笑 ペアリングの企画はここからどんどん楽しくなってしまいましたね。
正田:一旦、この鶏鍋と数種類のワインでテイクアウトとデリバリー営業をスタートしました。でもこの鶏鍋がお客さまに受け入れられるのは、もう少し後の話なんですが。
グループ内の店舗ではウーバーイーツも行っていますよね?
デリバリーをそこに集約するというのは考えていなかったのですか?
石山:ウーバーイーツはスタートした時期から取り組んでいましたが、正直100%頼り切ってしまうと利益が出ないだろうと思っていました。
正田:僕たちが提供したいものを考えたとき、日常的に楽しんでもらいたいという希望もありました。手数料がかかってしまうウーバーでは価格帯もあわせ辛いことも心配な点だったんです。頃末さんとの物流網で普段から仲の良い近隣の店の商品を配送しようか?なんて話もありましたね(笑
緊急事態宣言が発令されてからは、店舗を閉鎖しグループ3店舗合同でのテイクアウト・デリバリー専門の運営に切り替わりましたよね?
その経緯を聞かせていただいてもいいですか?
石山:4月7日に緊急事態宣言が発令されて、店舗に集客ができないとなり、一旦は全店舗休業の話もでました。でも、近隣の人にだけでも今こそ料理を届けて行くときだろうという思いも強く。
正田:社内のメンバーへ話を持ちかけたときは、状況が状況だったので、自分や家族への感染リスクを不安に感じているスタッフも多くて、まずは幹部メンバーだけで安全に配慮した万全の体制を作ってテイクアウトとデリバリーの営業をはじめました。
石山:自分たちの手でお客さまのもとへ料理を届けた時や、店舗へ買いに来てくださる方々が通常営業の時以上に喜んでくださって「何をしてもダメだ…」という空気が一気に払拭できたのは印象的でしたね。なんでこの仕事をはじめたのか?という、自分の原点へすこし立ち戻れた気もしました。
正田:その雰囲気を見て、すぐに他のスタッフたちも参加してくれました。僕としては全店舗のスタッフが顔を合わせることはあまりないので、みんなで協力するという流れを作れたことは嬉しかったですし、メンバーの新しいポテンシャルも見えてきました。
石原:すごく不思議な話なんですけど、うちの店の通販のお届け先を見ていると、この時期から神戸市中央区からの発注が急増していたんですよね。自宅での時間が増えたこともあるでしょうが、そこに「美味しいごはん」の要素も大きかったんじゃないかとは思いますね。
石山:エリア的な話だと、外出ができない中で自分たちの存在感をどうやってだしていこうか?ということも頭を悩ませていました。
正田:はじめから私たちのことを知ってくださっているお客さまには、Instagramのテイクアウト・デリバリー専用アカウントを作って提案していて少しずつ手応えも感じてはいたんですが…
石山:肝心の近所の方々にもっと知ってもらいたいという思いが強くなって、気づけば私自身で手描きのチラシを作って近所のマンションへポスティングをしていました。お店の近所の集合住宅の管理人さんとかも、直接お話をすると「入れて良いよ」と快諾してくださる所が多くて嬉しかったです。
正田:石山は軽く手を痛めるぐらい、ポスティングに力を入れてしまって(笑) 最終的にはネットもチラシの展開も両方ともすごく反響をいただきました。リピーターのお客さまも多く、そうなってくるとメニュー開発もどんどん力を入れるようになりました。自宅で毎日のように色々なお店のテイクアウトを活用して、頃末さんから届けてもらったお酒と食べていましたね(笑)
石山:初期に作っていた鶏鍋セットが緊急事態宣言以降に少しずつ売上が伸びたことも面白い流れでした。“おうちのごはん”の延長として、自分で手を加えて完成させるという商品も受け入れられていくんだという流れを感じ、備蓄もできる真空パックのレトルト製品にも力を入れました。
正田:私たちのグループは3人の料理人と1人のパティシエがメニューを開発しているんですが、それぞれの個性と裁量で値段設定なども任せています。
石山:そんな中で私たちの中でも新たなヒット商品が生まれました。例えば、ティラミスは値段がコンビニより少し高いぐらいの価格設定でしたが、コンビニに寄るみたいに店舗に顔を出してくださるお客さまが結構いました。またイチゴのプティングは「15個ほどまとめ買いできないか?」なんて相談をくださるお客さまも。こうした“ちょっと使い”のお客さまが増え、私たちのことを新しく知ってくださったのも嬉しかったですし、今後のお店のあり方にも良い影響がでそうですね。
緊急事態宣言の解除をうけて、6月1日から営業自粛要請が解除になりました。
今後の展望をお聞かせください。
正田:6月1日からは、デリバリーの対応を辞め、各店舗にて通常の営業とテイクアウトの対応へと切り替えることにしました。ただ、もとの営業になるだけではなくて、さらに一歩進んでいきたいと考えています。
石山:例えば、この期間のあいだに製菓の製造・販売免許も取得しました。会社としてずっと取り組みたかったことだったのですが、先送りになっていたんです。これだけまとまった時間ができることは無かったので、そうしたことをカタチにしていく時間としても良い機会だったと思っています。
石原:頃末商店としても、こうして飲食店の取り組みになにかサポートをしていければと考えています。今後テイクアウトが増えるならと思い、大容量のワインを仕入れ、新しい価値をお客さまに提供できたことも一つ相乗効果だったと思っています。
石山:改めて、”お客さま”が居て、”取引先の皆さん”の協力があって、そして一緒に街を盛り上げる”同業者の飲食店”がそろっての神戸の街だと感じた期間でした。今後、もしかしたら街のあり方も変わるかも知れません。そんな中でも前向きに"街”を盛り上げていく一員として、お店づくりに取り組んでいきたいと思っています。
☆編集部より
取材を通じ、飲食店にとって致命的とも言える営業自粛の流れの中でも、ポジティブに試行錯誤を繰り返していく姿勢、そして“店”や“企業”という単位ではなく、街全体を盛り上げる一員としてできることをしたいという、あたたかい気持ちを感じることができました。こうした街のお店の存在が、私たちの暮らしを豊かにしてくれているということに感謝をしていきたい、そんな事を自然と考えられる時間になりました。お忙しい中、時間を作ってくださったapartment inc.石山さん、正田さん、そして株式会社頃末商店の石原さんありがとうございました。
写真:西山 榮一、文:荒川 翔太