インタビュー
コロナ禍で何を”得た”のかvol.03/「食」を通じた社会貢献
BRASSERIE L’ARDOISE(ブラッスリー ラルドワーズ)
柘植 淳平さん
神戸三宮磯上通にある「BRASSERIE L’ARDOISE」はミシュランガイドのビブグルマンにも掲載された人気フレンチだ。開店以来、柘植さんのご実家である加西市で自家栽培した野菜を使用するなど食材のこだわりはもちろん、季節や旬の食材に合わせて自由にアレンジしていくアイデア豊富なメニューも好評だ。
迫られた選択、家で作った「お昼ごはん」がヒントに
その人気店にもコロナの影響は3月に入ってから色濃く表れ始めた。柘植さんは通常のレストラン営業ができない中、完全に休業するかテイクアウトをするかの二択を迫られる。
「レストランの価値って、料理だけでなく、お客さんに足を運んでもらって、その場での体験、接客サービス、お店の空気感も含めて決まると思っています。ですから、休業して、店と同じコースをパッケージしてテイクアウトしても、来店と同じ感動を提供できないのでモチベーションが上がらなかったんですよ。」
少しでも利益を出すためには、テイクアウトをせざるを得ないが、方向性に迷った。
臨時休業中の数日間で方策を考える間、家で子どもたちの朝昼晩ご飯を作って、その大変さに改めて気づいた。周囲の保護者からも、特にお昼ご飯を作るのが本当に大変という声を多数聞いた。
「フレンチという枠をいったん取り払って、自分が家で作っているお昼ご飯をテイクアウトしたら喜んでもらえるのではないかなと思ったんです。」
人に喜んでもらえる、という明確なモチベーションが見え、活路が開けた。
「お昼ごはんデリバリー」で広がる協力の輪
一つの目安として、“GW明けまでに中央区の100家族分のお昼ご飯を作る”という目標を掲げた。10食6,000円で、デリバリーのタイミングはお客様に選んでもらう形にし、売上数字としても指標ができた。さらに何か貢献できることはないかと考えた時、ちょうど医療崩壊の危機が起こっていることをニュースで知った。またフランスではシェフが医療関係の方へ料理で支援する取り組みがあることも知り、自分も医療関係の方へお昼ごはんのデリバリー(医療関係の方は3,000円)でサポートできるのではないかと思い立った。
様々なパーツが合致し、4月13日からスタートしてからの動きは早かった。即日Instagramで情報発信すると、さっそく反響があり、お店単体で受注できる数は瞬く間に超えた。
「中央区限定、と言っても中央区ってなかなか広くて、配達も慣れるまで大変でした(笑)。」
そんな中、柘植さんの活動に賛同した中央区の飲食店や企業の方がテイクアウトの料理や配送のサポートで手を挙げてくれた。
「『コムシノワ』さんや、私も参加している『神戸マルシェ』の店舗の皆様等、中央区の飲食店の方々にはとても助けてもらいましたね。協力してくださるお店の負担にならないように調理数などの分配は工夫しました。」
また今回、外出自粛が続く中、新たな企画を立ち上げて手応えを掴んだ。
「Instagramでゴールデンウィークに架空の旅行会社、『ラルドワーズ・ツーリスト』を作って世界旅行をするという企画をしたところ、とても好評でした。料理写真とエピソードを投稿して、その料理はもちろん、お店で使用している食器も共にデリバリーして、味だけでなく、盛り付けの楽しさ、空気感もお客様に楽しんでもらうことができました。今後も定期的にできればと思います。コロナは確かに大変でしたが、新しいアイデアが生まれるキッカケにもなりました。」
「あと、今さら、と言われるけど(笑)、発信することの重要性を痛感しました。今までは口コミを中心にしてきましたが、Instagram等SNSで発信することによって、大きな反響がありました。これは続けなければならないと思いましたね。」
「食」で神戸の街を盛り上げたい
この約2か月間で柘植さんが強く感じた事とは。
「こんな大変な時になって、改めて思ったんですけど、やっぱり常にやりたいことをやることの楽しさ、ありがたみがわかりました。自分が何をやりたいか、常に自問自答しながら、やり残したことがないようにしていきたいです。」
そして、神戸のこれからの食についても想いを馳せる。
「食を通しての社会貢献が一つできたんじゃないかなと思います。また私も参加している『がんばろう!食都神戸』で今回の経験をシェアしていきたいですね。その取り組みの一つで、6月最初の一週間、今度は『ラルドワーズ』としてではなく、『がんばろう!食都神戸』の一員として、「シェフが作る晩御飯」を、お昼ご飯をデリバリーしたお客様に引き続き提供していきます。これからは『がんばろう!食都神戸』を通じての様々な取り組みにもさらに挑戦していきたいですね。」
柘植さんの多彩なアイデアが、神戸の「食」をこれからも盛り上げてくれそうだ。
写真:西山 榮一、文:小島 良太
【協力店舗一覧】
アズーリ
エッレ
割烹道下
クレイジーブリトー
国産チーズ酒場Ace
コムコカ
コムシノワ
コメドールエステラ
肉バルストゥブ
ベルターブル
ビストロスミモト
ビストロレクレ
港町マザー
Liang You 良友
レストランマツシマ
和料理 みのり
ほか